キャリアストーリーを知る女性研究者インタビュー

サイエンスの醍醐味は実験にあり。ミクロの粒子から宇宙誕生の謎に迫る

理学研究科 准教授 / 成木 恵 ( NARUKI MEGUMI )

  • 京都大学理学部を卒業
  • 京都大学大学院理学研究科 博士後期課程を修了
  • 理化学研究所 基礎科学特別研究員、高エネルギー加速器研究機構 助教
  • 理学研究科 准教授

 宇宙はどこからきて、どこへゆくのか。この壮大なスケールの謎を解明する鍵の一つが、ミクロの世界の粒子です。私たちの体をはじめ、身のまわりの物質を細分化してゆくと、分子や原子、クォークなどの素粒子にたどり着きます。ここまではわかっているのですが、素粒子がどのように組み合わさり物質ができているのかは未解明。体重計に乗れば、質量の存在は実感できますが、その質量がどのように生まれているのかはわからないのです。

質量誕生にのこされた99パーセントの謎を追う
 2012年、スイスの大型ハドロン衝突型加速器がヒッグス粒子という素粒子の存在を実証しました。宇宙の誕生直後、粒子は光速で移動していて、質量はありません。宇宙が膨張する過程でヒッグス粒子が充満し、粒子が抵抗を受けることで質量が生まれ、物質の生成につながります。

 でも、ヒッグス粒子のみで説明できるのは、質量の世界の約1パーセント。目の前にあるこの机が10キログラムだとすると、たった100グラム、卵2個ぶんぐらいのことです。私たちはのこされた99パーセントのメカニズムをあきらかにしたい。それは、誕生から現在、そしてこの先までつづく宇宙の軌跡を知る試みでもあるのです。

実験に没頭した大学院時代
 物理が好きで、京都大学理学部に入学。入学後は数学のおもしろさに目覚め、数学の授業ばかり受講しました。3回生で専門を選ぶ段になって、「一生、つづけていくなら……」と考えたとき、物理が好きだった初心を思い出しました。理論の美しさを追究する数学とは違い、物理は実体ある自然が相手。ものの道理を追究する学問ですから、いくら理論が完璧でも現実がそうでなければ仕方がない。そこにおもしろさを感じたこと、さらに、もしも研究がいきづまっても、実体のあるものが相手なら道が見えてくる気がしたのです。

 いまにつながるテーマをはじめたのは大学院に進んでから。これという理由はわかりませんが、「なにがあってもこれをやりきる」と夢中で研究をしていました。よい結果が得られたことにくわえ、博士論文を書くということはその道の第一線の研究者として認められるということ。「この分野ならだれにも負けない」と博士論文を書いて実感できたことが研究をつづける原動力になりました。

 いまはふたたび、大学院で取り組んだテーマに挑んでいます。実験装置が進歩し、この冬にはこれまでにない新しいデータが得られます。どんな世界が見られるのかワクワクは尽きません。

実験はトライ・アンド・エラーがあってこそ
 京都大学への着任にともない、夫と子どもと離れ、2013年から単身赴任をしています。子どもの通う保育園探しに苦労しましたし、新たに京都で保育園を探すのも容易でなかったのが理由です。さいわい、実験では茨城県にあるJ-PARCのハドロン実験施設を使います。自宅からも近く、実験時には自宅から施設に通えるのも決断を後押ししました。平日の育児を担う夫はもちろん、研究チームや周囲の理解の深さに助けられています。

 大学院生のころ、恩師に言われたのは、「オールラウンダーになれ」。オーケストラの指揮者のように、一つの分野を率いるには、どれか一つだけではなく、ひととおり経験しておくことが肝心です。「たいへんだ」と思うかもしれませんが、自分で選んだテーマに必要なことに一つひとつ取り組んでいれば、おのずと身につくものです。

 恩師の言葉どおり、テーマ選びから装置の開発、実験、分析、発表までの一連の流れに楽しさを感じていますが、私は根っからの「実験好き」。仲間と集まって「物理をやめるか、実験をやめるかどっちを選ぶ?」と聞くと、だいたい半数に分かれるのですが、私は絶対に実験派。どんな実験も、1回で成功することはありません。失敗して、その原因を確かめ、ふたたび挑戦する。このプロセスこそ、サイエンスそのものだと感じます。トライ・アンド・エラーあってこそ。まずは勉強でも課外活動でも遊びでも、好きなことを見つけてほしい。あとはおそれず挑戦するのみです。