キャリアストーリーを知る女性研究者インタビュー

自分の目と足で。フィールドワークが私の研究の原点

文学研究科 准教授 / 丸山 里美 ( MARUYAMA MISATO )

  • 京都大学文学部 卒業
  • 京都大学大学院文学研究科 修士課程修了
  • 同大学院 博士課程修了(日本学術振興会特別研究員DC)
  • 日本学術振興会特別研究員PD
  • 立命館大学産業社会学部 准教授
  • 京都大学大学院文学研究科 准教授

[研究テーマ] 女性の貧困

音楽をとおして 興味をもった社会学
 高校生のころは、軽音楽部でバンド活動に明け暮れていました。音楽がその時代の社会的状況や差別された人たちの声を反映して生まれることを知り、大学では社会や文化について考えることのできる社会学を専攻したいと考えるようになりました。目標を定めてからは、京都大学文学部の受験に向けて努力しました。大学入学後は、軽音楽部での活動のほか、映画を見たり、講演会に行ったり、おもしろそうと思ったところにはどこにでも顔を出していました。夏休みなどの長期休暇にはバックパックを持って放浪の旅に出ることもありました。また1回生から参加していた現代風俗研究会*1という集まりで、さまざまな個性をもつ学生や研究者たちと知りあい、研究の楽しさにふれることになりました。そうした環境のなかで、身近にいたのが社会学の大学院生や研究者だったことも、3回生で専攻を決めるさいに社会学を選ぶ理由となりました。なにかフィールドワークをして卒業論文を書きたいと考え、テーマを「ボランティア」に決めて、自分もボランティアをしながら参与観察をしました。大阪市西成区の釜ヶ崎地域で行なわれていた炊き出しをフィールドにし、3回生からは毎週のように通っていました。

*1 現代風俗研究会 桑原武夫京大名誉教授を中心に、1976年9月に発足。現代の風俗現象を、従来とは違った角度から調査・研究し、社会を新しくとらえ直すことを目的に活動。

交流と体験に導かれ研究者の道に
 「調べてものを書く」仕事に就きたくて、学部生のころは新聞記者になりたいと考えていました。しかしフィールドワークや卒業論文を書く作業が楽しく、また実際にやってみると、短期間でアウトプットを求められる記者よりも、長期間調査に取り組める研究の方が自分に向いていると思い、学部3回生の冬に研究者をめざすことに決めました。現代風俗研究会をとおして知った、社会学の大学院生や研究者が身近にいたこともあり、研究者の生活のイメージがつきやすかったこともあったと思います。
 卒業論文のためのフィールドワークをした釜ヶ崎は、日雇労働者やホームレスの人が集住している、男性が圧倒的に多い街です。そこでフィールドワークをするなかで、この街で女性が生きる困難を、身をもって知ることになりました。それをきっかけに、ときどき見かけることのあったホームレスの女性が、どのようにこの困難のなかを生きているのかを知りたいと思うようになりました。院生時代は、女性のホームレスの方を対象に実態調査をしていましたが、現在は世帯内の資源配分に焦点をあてながら、ジェンダーに留意した貧困の概念や測定の仕方について研究しています。

限られた時間を工夫して子育てと研究を
 私生活では子どももいるため、研究と家事・育児などの生活との両立に、日々頭をつかっています。そのなかで心がけているのは、ひとつひとつの仕事にかかる時間や締切、優先順位を考えて、仕事のスケジュールを立てるということ。仕事を種類でわけ、午前中はもっとも集中力のいる仕事、ミーティングは午後に入れるようにするなど、それぞれの仕事に適した時間に行なうことで、限りある時間を有効に使えるように工夫しています。
 自分のためだけに使える時間は多くないものの、研究に関してはかんたんに理解した気持ちにならず、ほんとうにわかったと思えるまで、時間をかけて取り組むことをだいじにしています。近い将来、できればまた海外で研究もしたいし、博士論文以降の研究を本にまとめる作業もしたい。子どもの成長を楽しみながら、自分の時間もだいじにし、研究をつづけていきたいと思っています。

♢ ESSENTIAL THINGS

子どもが通う保育園
子どもが大好きな友だちや先生とすごせる場所。私の生活にはなくてはならないものです。子どもが丈夫に育ってくれたことにも助けられました。

♢ Key Item

ヨガマット
この上で毎朝1時間半のアシュタンガ・ヨガの練習をつづけています。時間を取られますが、健康維持にも役だち気持ちもすっきりし、長い目で見ると、生産性があがると思っています。


京都大学は、それまでの人生のなかでは想像もつかないような多様な人やものとの出会いにあふれていると思います。私は受験で苦労しましたが、京都大学はそれだけの価値のある場所でした。みなさんもぜひ京大で自分の世界を広げる出会いをしてください。
研究の世界では、苦手なことをカバーしようとするよりも、得意なことを伸ばすことで、より途は拓けていくように思います。研究者をめざそうとするのであれば、まわりに惑わされず、自分の好きなことを追究してください。