キャリアストーリーを知る男性研究者のワークライフバランス

育児は一人ではできないもの。
だから何事も全体最適を目指したい。

梶丸 岳

人間・環境学研究科
[研究テーマ] 中国、日本、ラオスの掛け合い歌

1980年西宮市生まれ。1999年京都大学総合人間学部入学。生物科学専攻で卒業し、2003年に人間・環境学研究科へ。その後学振PDの間は関東に住み、その後3年ほど京都で京都市立芸術大学日本伝統音楽研究センターを中心に非常勤講師で生計を立てる。その頃に京大の同級生だった妻と出会い、2016年に事実婚をする。同年中小企業診断士登録。その後2017年3月から現職。

家事は誰がやってもいい。それなら自分がやろう。
昨年9月末から子供が保育園に入園してお試し保育が完了する今年4月中旬まで育児休業を取りました。幸い上司も育休取得に理解があり、周りの女性教員の励ましや応援、色々なアドバイスが本当に有難かったです。なお、法律婚でも事実婚でも受けられる制度上の支援はほぼ変わりません。
長期育休を取って感じたメリットは、両方同じくらいのスキルで子どもの世話ができるようになるということに加え、常に相談しながら意思決定ができるため、何事も一人で決断しなくていいということです。子どもの状態については共通理解があるので、相談するときに今どういう状態かをいちいち伝える必要がないのです。これらは「時短育休」とか「2週間だけ育休」では達成できないと感じたので、男性も育休は少なくとも1か月以上取ったほうがいいと思いました。元々私は家庭を含め何事も全体最適配分を目指しているので、子どもが生まれる前後で特に意識の変化はありませんでしたが、子どもが生まれた後は育児が常時最優先課題として存在しています。そこで、妻の状態をなるべく観察し話し合って連携をより緊密に取るようになりました。育児・家事が最優先のタスクになり、その次が授業準備などの学務や学会業務、研究は基本的にその隙間時間に行う感じです。細かいタスクの割り振り調整は随時やりますが、妻は大手私大の准教授で学務が私の倍ほどあるため、よほど重要性の高い仕事がない限り、妻に家事や育児を任せきりにすることはありません。物心ついた頃から兄弟間で当番を決めて家事を仕込んだ母のおかげもあって、生活面で一通りのことはできるようになっていたこともあり、やるべき家事をできる方がやるのは当然のことだと思っています。ですが、去年からのコロナ禍では基本的にどちらも家にいたため、家事も育児も比較的うまくこなせていたところ、最近は対面授業に戻って双方ともに家にいる時間が減ってしまったので、家事の調整の大変さは感じています。

フィールドワークで手に入れた笙。ラオスの楽器です。

育児をしてみると視野も思考も広がる。
我が家は布団で寝ているのですが、最近子どもがニコニコしながら親を叩き起こしに来るようになり、眠いですが可愛すぎます。一日一日見ていると「意外とそんな急には大きくならないな」と思うのですが、数か月前の動画を見るとものすごく成長していてびっくりします。その他色々と乳児の生態について実地で経験できたのと、これまで文献などである程度知っていた人間の発達を観察できているのはとても楽しいです。最近は爆発的に言語能力を発達させていく時期に差し掛かってきているようなので、第一言語獲得の過程を見るのが楽しみです。
育児を通して、得たものや学んだことは他にも多くあります。例えば、昭和の主婦としてほぼ一人で男児三人育てた母の苦労。ベビーカー移動が増えてよく道の歩道の段差に躓くので、ちょっとした段差が車いすにも大変だろうとか、そういった派生的な推測もよく働くようになりました。また、便利な数々のアプリも活用するようになりました。産まれる前は「トツキトオカ」で発生の具合や妊婦の体調変化の管理、産まれてからは「ぴよログ」で子供の生活のログを取って、次の献立を考えたり体調管理に役立てていますし、「みてね」で両実家などにプライベートな子どもの写真や動画を共有して楽しんでいます。

課題は休日のオンオフの切り替え。
休日をどのように過ごしているか・・あえて言えば趣味的な読書をしたり、アニメや映画を見たり、旅行に行くぐらいでしょうか。大学教員らしく休日というものがあまりはっきりしていないので何とも言えないのですが。大学事務や学会業務を含め、世間は大学教員が土日も仕事をすることを前提として動きすぎているように感じます。常に仕事が存在するので、かなり断固たる決意で「今日は休日にするのでメールも見ない!」と決めないと一日のどこかでは必ず仕事をしてしまいます。とはいえコロナ禍であるうえに、元々が出不精かつ忙しすぎるので、子どもが生まれてからは旅行するという話も出なくなりました。あと、世間的な休日は子どもが家にいて世話に明け暮れているので、保育園に通うようになってからは「休日の疲れを平日に癒す」ような感じになっています。育児は体力が必要とされるため、すぐに疲れてしまうことも多いですが、子どもがいつも自分のあとを追っかけてきたり、(おそらく妻よりも)自分になついている姿を見ると可愛くて幸せで仕方ないですね。

私の著書と文学研究科出身の妻の著書

現在の仕事について

研究内容:
掛け合い歌の研究。(文化人類学者でこの研究をしているのは、私を含め日本には二人しかいません。)基本的には歌によるコミュニケーションに関心があるのでさまざまな分野に手を出していますが、現在は言語人類学と民族音楽学を専門にしています。最近は秋田の民謡社会についても研究しています。

研究テーマを選んだ理由:
1)人間のコミュニケーションに関心があった。
2)大学時代オーケストラに所属しており(ホルン担当)音楽の素養が多少あった。
3)調査地への渡航費を自力で賄える&調査地の環境が過酷じゃない。

子育てで心がけていること、モットーは?:
家庭は夫婦の共同経営事業。負担・資源配分の全体最適化を目指すべし。明確な役割分担は不合理の元。

今後の目標:
1)助教は主体的に学生指導できる身分ではないので、自分が主体的に学生指導できる身分になりたい。
2)やっていることや指向性がマイナーすぎるので、研究世界を広げるべくもっと英語で研究業績を出して、外国の研究者としっかり研究を進めていけるようになりたい。
3)中小企業診断士として京都府中小企業診断協会に入っているので、先の目標としてコンサルティング関係での産学連携についても取り組みたい。

若い世代へのメッセージ
核家族は実働部隊が2名しかいないベンチャー企業のようなものなので、柔軟に互いをサポートして日々の業務を回せることが何より肝要です。経済的なことも重要ですし、相手のことを「思いやる」「察する」こともそれなりに大切ですが、それよりもちゃんと互いに自分の都合を言い合って調整できることのほうが大事です。結婚するなら話し合って相互に調整できる相手にしましょう。
世の中には色々と大事な仕事があるとは思いますが、社会にとって次世代を生物学的に再生産し、社会化していくことほど重要な仕事はまずありません。そのことを社会のシステム運営・構築に携わる方々にはご理解いただきたいです。実際に育児に携わってみて、人間の乳幼児は母親一人で育てるようにはできていないことが改めてよくわかりました。核家族で育児を家庭内で完結させるのはおそらく人間の生き物としての道理に外れているので、保育所の拡充やベビーシッターの充実、男性育休の普及など、社会で人を産み育てるように、世の中もっと進化していってほしいです。

=取材を終えて=
気さくな先生で、お話から家族に対する愛情があふれていました。近い将来、育休が男女問わず当たり前に取得することができることを、私たちも願っています。