MY STORYNo,15
RESEARCHER
研究者
Yukako
Yoshinaga

良永裕佳子
工学研究科 助教
見晴らし良好、
桂の丘から
眺望する
キラル分子の
創製の夢。
挑戦の決め手は
「おもしろそう」
という直感
右手と左手は鏡写しの関係です。右手の鏡像は左手ですが、実物の両手が同じ形で重なりあうことはありません。このように物体とその鏡像とが重ならない性質を「キラリティ」といいます。このキラリティをもつ分子、キラル分子が私の研究対象です。
キラリティは化学にとどまらない普遍的な概念です。分子よりもさらに小さな素粒子、鉱物の構造や銀河にいたるまで、さまざまなものに現れます。小さなキラリティが積み重なって、目に見えるキラリティになる。大学時代に出会ってからいまなお、不思議にあふれたキラリティへの興味はつきません。
あまのじゃくな気持ちから理系に転向
中3の文理選択の時期が迫るまで、将来は文系学部に進むものだと疑いもしませんでした。でも、思春期ゆえか、経済学者の父への反抗心からか、あまのじゃくな気持ちが生まれて、理系コースを選択すると決めたんです。想定外の選択だったので、勉強は苦労しました。とくに、抽象的な世界の中で物事を考える数学には当時、苦手意識がつのるいっぽうでした。そんななか、化学は化学式や構造などの目に見えるものから考えられる科目。「これならわかる」と直感したのです。
大学院修了後も研究をつづけたくて、大学に残る道と、企業の研究施設で勤める道の両方を視野に入れて就職活動をしました。大手化学メーカーに入社して2年半後、企業での研究のおもしろみを味わいはじめた矢先でしたが、巡ってきたタイミングとチャンスに飛び乗って、京大に着任。アカデミアの研究者としての挑戦をはじめました。
いま思えば、直感的に物事を捉えることからはじまる私の研究スタイルは、企業よりも学術研究の世界に向いていたのかもしれません。企業の研究はとても計画的で、数年後の成果を見据えて確実に成果を重ねながら、研究します。いっぽうの私は、「これ、おもしろそう!」というふんわりとした興味や、「これはうまくゆきそうだ」という根拠のない手ごたえが原動力。すぐに社会に役だつ研究ではないかもしれませんが、純粋な好奇心を基盤に研究ができれば、もっと充実した研究生活になるはずだという予感もありました。
着任からことしで2年。研究は走り出したばかりです。まずはキラル分子を軸に、新分子をつくりだしたり、その性質を調べて理解したりしながら、新しい領域を切り拓きたい。そして、「ここが私の場所です」と胸を張れるようになりたい。その思いで、分子と向き合っています。

自分らしさは変わりつづけるもの
進路選択には「自分らしさ」を見つけることが大切だといわれますが、自分らしさは変わるものだというのが私の持論。若いうちはとくにそうではないでしょうか。そんな私も、まだまだ「自分らしさ」は模索中。これまでの選択で頼りにしたのは直感です。誤った選択もあったかもしれませんが、将来、ふり返って過去の自分を眺めたとき、「あのとき私は、ああ考えていたからあの選択をしたんだった」と、自分のなかで理屈がとおっていれば後悔はしないだろうと思っているんです。
「化学が好きかも」という直感で進学を決めた京大工学部。化学分野一つをとっても、研究テーマは宇宙から微生物にいたるまで、身近な衣食住から極限環境の自然まで、あらゆるスケールの事象を研究しています。アプローチの切り口も多種多様。「おもしろそう」と感じたら、飛び込んでみてください。自分の興味や関心のアンテナに引っかかるテーマにかならず出会えるはずです。

学部時代は、クラシックギターにのめり込み、授業の時間以外はギタークラブの部室にこもって練習していました。親から「早く帰ってきなさい」と言われるほど、夢中になっていました(笑)

Recommend高校生のみなさんに手に取ってほしい作品
『アルケミスト─夢を旅した少年』パウロ・コエーリョ 著、山川紘矢、山川亜希子 訳(地湧社)
ピラミッドに宝物が隠されているという夢を見た少年が、エジプトに一人で旅に出るお話です。旅中での出会いと別れをとおして、人生の知恵を学ぶ少年の姿にふれ、人生において「冒険」をつづけることの魅力・大切さを実感しました。
『代替医療解剖』サイモン・シン、エツァート・エルンスト 著、青木薫 訳(新潮社)
サイエンスライターの著者が、鍼、カイロプラティック、指圧などの代替医療の科学的な評価を試みます。印象的だったのは、日本では「天使」という印象の強いナイチンゲールの統計学者としての姿。病床の衛生状態を数字から分析して導き出すなど、イギリスでは統計学の先駆者として記憶されています。サイエンスの考え方や視点によって物事を明らかにしていく気持ちよさが味わえて、わくわくする感覚は癖になります。社会人になってから読んだ本ですが、高校生の自分に読んでほしいと感じる一冊です。