MY STORYNo,16
RESEARCHER
研究者
Yume
Imada

今田弓女
理学研究科 助教
マニアック
だからこそ
問いつづけた
研究の意義。
蛾と苔、鳥が
織りなす関係から
進化に迫る
ものごころついたころからとにかく虫が大好きで、ついたあだ名は「虫博士」。動物園に行っても、パンダよりも笹にくっつく虫ばかり見ているような子どもでした。図鑑が愛読書で、小学2年生のころには研究者を夢見るように。いっぽうで「チョウの研究者は多いから、よりマニアックなガの専門家になろう」とひねくれたところもありました(笑)。
昆虫にかぎらず幅広く学びたくて、京都大学理学部に進学。野生生物研究会で国内外に調査に出かけたり、自主ゼミで仲間と議論したりと、まさに青春でした。その後の進路を決めたのは、花と虫を中心に生物を幅広く研究する加藤真先生との出会い。一回生の春に加藤先生とお会いする機会があり、「ガが好きです」と伝えると加藤先生の目が嬉しそうに輝いて(笑)。ここぞとばかりにガに関する研究テーマや書籍を紹介されました。
生態学にのめり込むも、自問自答の日々
出会った日に加藤先生から言われたのは、「昆虫を知るには植物を知るべし」。植物を理解することはすなわち環境を理解することで、生態系の一部である昆虫を研究するなら植物の理解が欠かせないと知り、昆虫の世界が鮮明に目の前に開けるのを感じました。生物同士の関係を調べる生態学という学問との出会いでした。
そこからは植物と昆虫の相互作用の研究にのめり込むように。コケを食べる原始的なガであるコバネガを追ってコケの生い茂る森や林に分け入り、ガを持ち帰っては研究室でDNAの塩基配列を解析する日々。学生時代はとにかく無我夢中で、苦しさのほうが大きかったです。マニアックな研究をしている自覚があるいっぽうで、「生きものが好きだから」という情熱だけで邁進できる性格ではなく……。「この研究にはどんな意義があるのか」とつねに自問自答していました。

飽くなき探究心は鳥や化石へ
研究が純粋に楽しいと思えるようになったのは大学院を修了し、教員になってから。学生時代には手の届かなかったテーマも扱えるようになり、現在は鳥類の研究にも挑戦しています。じつは鳥類の約20%がコケを営巣に利用しています。鳥がついばんだコケの断片をついばみ、体表に付着したコケが運ばれて、コケの分布域の拡大に一役買っているのではないかと考えています。視覚も知能も優れた鳥は陸上の生態系にとって重要な役割を担う存在。知れば知るほど疑問が湧いてきます。
現存する生物の生態を理解するには、進化の時間軸も欠かせません。そこで化石にも学びたいと、2017年から1年間はアメリカのスミソニアン博物館に留学。これが人生の転機でした。新しい分野に挑戦したつもりが、「これは潜葉虫の食べた跡だな」と、昆虫や植物を野外で観察してきた経験が化石の研究にいかせることに気づいたのです。これまでの努力が報われ、自信に変わった瞬間でした。

アメリカへの留学を通して、意思表示する度胸や楽観が身につきました。学会では女性PIもめだち、日本のジェンダー・ギャップの大きさを認識しました
理想の環境を求め、狭き門より入れ
進路を考えるうえで、「こうなりたい」という理想像が誰しもあると思います。そのための一歩は理想を言語化すること。言葉にすることで、「では、どうすればいいか」と問いが生まれ、本を読んだり、だれかに話を聞いてみたりと、具体的な行動につながります。
もう一つ重要なのが環境です。人間関係や環境が変れば、自分もまたおのずと変化するもの。したいことがまだ見つからないなら、「あの場所の一員になりたい!」という理想の環境をめざしてみてください。狭き門をくぐるには努力は必要ですが、きっと新たな自分に出会えるはずです。

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