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子育て世代の生の声 ~みんなどうしてる?~

育児、介護をしながらの、日々の研究活動のシーンでは、いろいろな悩みが生じると思われます。
ここでは、男女共同参画推進センターが提供する情報、部局によるサポートなど、京都大学における現状と事例を共有します。是非みなさまのご意見をお寄せ下さい。

無意識のバイアスUnconscious Bias をご存知ですか

ニュースレター第81号掲載(2018年9月1日)

こんな行動や考え方、心当たりはありませんか。
 ①女性は生まれつき数学の能力に欠ける、男性は育児が苦手である
 ②○○大学の出身者なら、この仕事を任せられる
 ③相手が話している最中に度々口を挟む、本人の前でその人を代弁する

男女共同参画学協会連絡会は、最近「無意識のバイアス ― Unconscious Bias ― を知っていますか?」というパンフレットを出しました。そこにはこんな紹介があります。

「無意識のバイアス ― Unconscious Bias ―」とは、誰もが持っているバイアス(偏見)のことです。育つ環境や所属する集団のなかで知らず知らずのうちに脳にきざみこまれ、既成概念、固定観念となっていきます。バイアスの対象は、男女、人種、貧富などと様々ですが、自覚できないために自制することも難しいのです。無意識のバイアスは色々な判断をする過程において便利なショートカットの役割を果たします。特に、下記に事例として挙げたように、採用や昇進人事の場では、無意識のうちに「バイアス」が働き得ることが示されています。それでも、私たちは「無意識のバイアス」がいつ、どのように現れるかを知ることで、「評価や判断」にあたってその影響を最小限に抑えることが可能です。

そこでは、3つのカテゴリーが紹介されています。

その1 .
ステレオタイプ・スレット(Stereotype Threat):先入観が脳に刻まれた結果、本人や周囲の考え方に影響を及ぼすこと。たとえば、「女子は生まれつき数学の能力に欠ける」という先入観が女性の進路選択に影響を及ぼすこと。
その2 .
属性に基づく無意識のバイアス:ジェンダー、職業、学歴等で人々を集団に分け、各集団の代表的な特徴(たとえば、○○に強い・弱い、信用できる・できない)を想定し、そこに属するメンバーの誰もがその特徴を持つと短絡的に判断してしまうこと。身内意識とよそ者意識も、これに含まれる。
その3 .
マイクロアグレッション(些細な侮辱):日常生活において、他人に対して横柄な態度をとること。たとえば、話の最中に度々口を挟む、目の前にいる人の存在を無視する、間違えた名前で呼ぶ等。当人に自覚がなく、対象となる人への無意識のバイアスの表れ。

無意識のバイアスは、誰もが持っているものですが、その存在を自覚することによって、弊害を抑えることも可能である、と締めくくられています。詳細は以下のURL をご確認ください。
「無意識のバイアス ― Unconscious Bias ― を知っていますか?」
 男女共同参画学協会連絡会( 2017 )、
  http://www.djrenrakukai.org/doc_pdf/2017/UnconsciousBias_leaflet.pdf
  https://www.djrenrakukai.org/doc_pdf/2017/UnconsciousBias_leaflet_eng.pdf

無意識のバイアスに関するパンフレットには、具体例として、以下のような実証研究も紹介されています。

Motherhood Penalty?(母親であるゆえのペナルティ?)

能力的にも学歴も職歴も全く同じレベルで、子供の有無だけが違う管理職候補者の評価をした際、父親の方が母親より有能とみなされ、初任給の額も高い。子供のいない女性は父親あるいは子供の無い男性と同レベルかそれ以上の評価を得る傾向にあり、推薦される割合も母親の2 倍近い。

女性だからというわけではなく、「母親だから」とみなす「無意識のバイアス」があることを示しています。
なお、評価結果に評価者のジェンダーによる違いはみられませんでした。

 S. J. Correll, et al. (2007) Am J. Sociology, 112, 1297-1339

選ぶ側に女性がいなければ、女性が選ばれにくい

これは日本の例です。理工系学会の中でも比較的女性割合の高いライフサイエンス系7 学会Visibility 調査からわかってきたことです。

年会のワークショップやシンポジウムの招待講演者の女性割合とオーガナイザーの女性割合を調べたところ、オーガナイザーが全員男性の場合、女性講演者の割合は10% であったが、オーガナイザーに女性が入った場合、32 %に上がったのです。この32 %という値は、学会の女性会員割合にほぼ匹敵します。選ぶ側に女性がいなければ、女性が選ばれにくいという典型例のひとつです(図略)。

M. K. Homma, et al. (2013) Genes to Cells, 18, 529-532.

教授の推薦状には男女で違いがある!?

指導教授が書く女性候補者への推薦状は男性候補者への推薦状と比べて短く、男性候補者の推薦状には「ずば抜けて優れている(Outstanding)」、「非常に優れている(Excellent)」という優秀さを表す言葉が頻用されるが、女性候補者には「細心」、「よく働く(Hard-working)」等の態度を表す言葉が多い、といった事例が挙げられています。

“よく気がついて協力的”という「女性の役割に対する既成概念」が「無意識のバイアス」となって推薦状の内容に反映されたものでしょう。

F. Trix and C. Psenka (2003) Discourse & Society, 12, 191-220.

なんとなく意識しないで過ごしている中で多くの「無意識のバイアス」があるという認識だけでも大事ですが、パンフレットでは、次のような時は影響が出やすいため、留意が必要と指摘されています。
・疲れている時、判断を急いでいるとき、色々な情報で脳がオーバーロードの状態にあるとき
・候補者の中の女性割合が大変低いとき
・業績に関する正確な、あるいは妥当な情報が不十分なとき
・評価基準があいまいで、紛らわしいとき