MY STORYNo,09

RESEARCHER

研究者

Runa
Yamori

山守瑠奈
フィールド科学教育研究センター 瀬戸臨海実験所 助教

COLUMN

白浜の環境が育む
豊かな海の生態系。
解きあかす鍵は、
生きものへの熱量と愛

瀬戸臨海実験所の位置する白浜の地層は、砂岩と礫岩が混じった塔島礫岩層からなります。比較的柔らかで崩れやすく、穴やくぼみをつくりやすいので、白浜の海にはみずから地層に掘った穴で生きる生物や、その穴を巣穴に利用する生物が多く生息しています。
たとえば、ウニの一種であるタワシウニは、鋭い歯で岩盤を掘って巣穴をつくります。おもしろいのは、この巣穴内にゴカイなどの別の生物が共生していること。さらに、タワシウニの死後には、ムラサキウニやナガウニという別種のウニが巣穴を借用し、新たな共生系が築かれます。その代表例がハナザラという貝の仲間。二次利用するウニの巣穴にのみ生息する種で、扁平な貝殻の下から覗く、小さくつぶらな黒い目がなんともかわいくてたまりません。

海洋生物への人一倍の熱量

物心つくころから海洋生物が好きでしたが、生物学的なおもしろさに目覚めたきっかけはクラゲです。「ウリクラゲは成長するとミズクラゲになる」と母親から教わり、信じつづけていたのですが、中学生になってクラゲ図鑑に目をとおすと、なんと、ウリクラゲとミズクラゲは動物門から違うと書いてある(笑)。その驚きもさることながら、図鑑に書かれたクラゲの生態に魅せられ、生きものの世界にハマってゆきました。
京都大学の受験を決めたのは、高3の夏。日本生物オリンピック二次選考に出場したことで、私と同じような熱量で生物を見つめ、深い知識をもつ人たちとはじめて出会ったのです。志望校を聞いてみると、京大志望者の多いこと。こんな熱い人たちと一緒に大学生活を送りたいと、一念発起して京大に照準を定めました。合格はしましたが、苦手だった数学の点数は散々でした(笑)。
1回生のころから自主的に白浜に通い、瀬戸臨海実験所を拠点にクラゲや貝を調査していました。転機は、2回生で受講した加藤真先生の講義。授業後にふと、白浜での調査のことを話すと、加藤先生の目の色が変わり、「来週、奄美大島で調査しない?」と声をかけていただいたのです。こんな機会はないと奄美大島に飛びました。調査をとおして学んだのが、現在の研究テーマである海洋生物の共生系。このときの好奇心にいまも背中を押されています。

ウニの巣穴にのみ生息する貝類の仲間のハナザラ

世界で唯一、磯の生態系を追う研究者として

大学院時代は、白浜で磯のウニを掘り出しては、巣穴に潜む生物を数えていました。磯の巣穴は海に入って岩を割らねば調査できません。たいへんさゆえに研究があまり進んでいないのが実情です。人間の生活空間から近い磯の生態系を知ることは、海洋開発の面からも重要です。環境保全活動にも力を入れたいと考えています。
とはいえ、やはり原点は「おもしろい!」という興奮。研究中は、研究対象の生きものに夢中になっています。2022年に、深海に生息し、陸上から流入した落ち葉を巣づくりや食料に利用するクシエライソメの生態を解明しました。口元のぷっくりした丸い器官を動かして落ち葉を運ぶのです。この姿を見て、「なんてかわいいんだ」と思ったのがこの研究をはじめる原動力でした。 研究にかぎらず、迷ったときは「楽しい」と思える方向に舵をきってきました。選んださきになにが待っているのかはわかりませんが、そう思った方向に進めば、楽しい場所にきっとたどり着けるはず。そう信じて、邁進の真っ只中です。

自身でイラストを描き、日々の会話につかえる海洋生物のLINEスタンプを発売するなど、アウトリーチ活動にも積極的に取り組む

趣味はダイビング。写真は−2℃の北海道の知床の海に潜ったときのもの。右は知床の海で出会ったキタユウレイクラゲ

海洋生物だけではなく、鳥類にも愛を注ぐ。写真は自宅で飼っているブンチョウ。赴任を機に白浜に引っ越し、消防団に入団するなど、地域との交流も積極的に重ねている

Recommend高校生のみなさんに手に取ってほしい作品

『クラゲのふしぎ』jfish 著( 技術評論社)

海洋生物に興味をもつきっかけの書籍です。中高生でも読める平易な文章で、クラゲという生物のおもしろさが綴られています。クラゲは95~98%が水でできている。いわゆる「クラゲ」は卵と精子で子孫を残す有性生殖世代であって、世代交代すると無性生殖をするポリプ世代になる。高校生の当時、この本に惹き込まれてミズクラゲの飼育に憧れ、母親に購入して貰ったポリプを6匹から2,000匹超に増やしました。無性生殖おそるべしです。