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研究者になる

辻 由希(法学研究科・准教授)

「違い」を強みにする

研究者への道を進もうと決心したのはやや遅く、その分まわり道をしてきました。私の専門は「ジェンダーと政治」という政治学のなかでは比較的新しい分野です。法学部の学部生時代には社会学のジェンダー/フェミニズム論を個人的関心から読んでいましたが、それと政治学とは「別もの」だと感じていました。所属したゼミでは、東京で国会議員にインタビュー調査するという経験をしました。ちょうど新進党が解党して新・民主党が誕生し、野党として存在感を示し始めるという「第二の政界再編期」にあたっていました。日本政治が構造的・制度的に大きく変化する1990年代に政治に触れたことが、政治学への遅咲きの興味を掻き立てるきっかけとなりました。

ただ、学問に漠然とした憧れを感じてはいたものの、学部卒業時には、普通に就職活動をして民間企業に採用されました。自分で給料を稼いで早く自活したいという思いが強かったこと、身近に大学院に進んだ人がいなかったために研究者として生きていくキャリアのイメージが描き難かったのが理由です。加えて基本的におっちょこちょいの性格なので、調べつくし、考えつくしてから進路を選んだというよりも、「迷ったら飛び込んでみよう」、という信条でかなり行き当たりばったりに就職しました。

結局、就職して数年のうちに学問への想いが強くなってしまい、今度は研究者になろうという覚悟をもって大学院に戻りました。採用してくれた企業には迷惑をかけましたが、社会人としてのマナーや成果へのこだわりといった心構えを学べたことはその後に役に立っています。また、会社員時代に様々な女性の働き方に触れ、ジェンダー論への関心も再燃しました。ちょうどその時期に行われた政策や制度の改正に女性の就労継続に対する政界・官界や経済界の考え方の変化を感じたこと、しかし他方で職場では結婚・出産を機に退職する女性社員が多いという実態を身近でみたことで、大学院に進んで研究したいテーマを見つけることができました。具体的には、ジェンダーに関わる政策・制度の変化(あるいは変化の遅さ)や、その背後にある政治の構造や動態について研究したいと思いました。

大学院に入ってからは、政治学という分野において、自分の選んだ研究テーマの意義をどう正当化するか、ということに苦心しました。人文・社会科学領域の他の研究分野に比べ、政治学ではジェンダー論の浸透が遅れていました。学会や研究会で出会った研究者の方々に「私の専門は<ジェンダーと政治>です」といっても、なかなか通じないことが多かったです。また、「女性研究者だからジェンダーを専門にする」、「ジェンダーは政治学の主流でなく周辺領域」、という風に見られがちな点(これは今でもあるかもしれません)をどう克服していくか、という点も課題です。これらについて自分なりに説明できるようになったのは、博士後期課程の途中でカナダのヨーク大学の大学院に2年間留学し、「ジェンダーと政治」について体系的に学んだことが大きかったです。

また、幸か不幸か、日本社会の構造変化によって高齢化・少子化や非婚化といった現象がクローズアップされることが増え、高度成長期~1980年代までに形成された日本の政策や制度(雇用、社会保障、家族に関する諸制度)が人びとの生活に合わなくなっている、という状況への認識が広まったことで、研究テーマを説明しやすくなりました。博士号を取得後はありがたいことに順調に職に就くことができましたが、それには時代のタイミングが合ったという運の要素が大きいと思っています。

研究を進める上で意識しているのは、領域間ギャップを強みにする、ということです。私の研究テーマは学際性の高いものであるため、社会学や人文科学など政治学以外の他分野の研究もフォローしていかなければなりません。その結果、政治学のほうでも社会学のほうでもややマイナーな立場に立っていることが多いですが、そのような視点からこそ見えるもの・言えることは何かということを意識して探しています。また、日本政治を欧米やアジアなど他の諸国との比較の枠組みに載せて分析していく必要がありますが、そのときにも同じように、それぞれの国・社会で「当たり前」とされていることをひっくり返すようにしたいと思っています。そのような視点をもつ上で、まわり道をしたり、人とは違うテーマを選んできたことは役立っているかもしれないなと感じています。

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