京都大学男女共同参画推進センター / Kyoto University Gender Equality Promotion Center

コラム

長い目で、自分らしく、自分にしかできない研究を。

フィールド科学教育研究センター 准教授・芦生研究林 林長/石原 正恵(ISHIHARA Masae)

  • 京都大学農学部卒業
  • 同大学院農学研究科修士課程修了
  • 同博士後期課程修了
  • 東京都レンジャー
  • 自然環境研究センター研究員
  • 神戸大学ポスドク
  • 京都大学フィールド科学教育研究センターポスドク
  • 北海道大学ポスドク
  • 広島大学テニュア・トラック講師
  • フィールド科学教育研究センター 准教授・芦生研究林 林長
研究テーマ:
樹木の生態、森林の植物多様性、炭素蓄積・吸収機能の研究

貧困・環境問題を考えるきっかけとなった海外生活

商社勤務だった父は転勤が多く、私も国内・海外を転々とする幼少期を過ごしました。特にタンザニアで暮らした3年間は印象深かったです。学校へは車で通学していましたが、通学途中の路上では貧しい子どもたちが物乞いをしに車に寄ってきます。そのようなときは「どうして自分は不自由なく学校にも通い、この子達は日々食べることにすら困り学校にも行けないのだろう」と子どもながらに思いました。タンザニアでの体験から、将来はアフリカの農村開発をして、貧困・環境問題を解決したい、と考えるようになりました。高校生になって本格的に進路を決めるときには、熱帯についての研究体制が整っている京都大学を選択し、受験勉強に励みました。京大は入学してみると、おもしろい先輩や先生がたくさんいて、色んな社会の問題にも触れ、今の研究に繋がる素晴らしい指導教官にも出会えました。「~しなくてはならない」ではなく、自分の好きなように楽しく研究しよう、オリジナリティの高い研究をしよう、という先生の方針のもと、樹木が若木から老木までの数百年という長い一生をどう生きているのかを最初の研究テーマとして選びました。木に登って調査しながら、木は自分が生まれた場所から動けないですが、若木から年をとるまでその時々の環境や目標に応じて、実は毎年あるいは四季を通じて少しずつ動いていることを目の当たりにし、人間とは異なる時間軸やメカニズムで生きている樹木をもっと知りたいと思うようになりました。その後、全国の長期森林データを解析する環境省のモニタリングサイト1000プロジェクトや日本長期生態学研究ネットワークなどに関わり、海外も含め多くの森林に行き、様々な研究者に出会い、データを解析しました。現在は、樹木の種多様性がどのように決まるのか、多様性や樹種ごとの生態が森林全体の機能とどのような関係にあるのかについて研究を進めています。また、地球温暖化、シカの食害、開発などの環境変化によって変化していく森を観るなかで、森がどのような影響を実際に受けているのか、どうすれば豊かな森を残し、回復させていけるのかということも様々な分野の研究者と協力しながら研究しています。子どもがいるので、海外へのフィールドワークや出張にはなかなか行けなくなってしまいましたが、昔の人が集めたデータも含め統合的に解析し後世にも残していくこと、芦生研究林の管理と保全にも取り組んでいます。

家族の協力を得ながらの研究生活。感謝の気持ちを忘れずに。

長いポスドクの期間中に結婚、出産を経験しました。結婚当初から別居婚でしたが、さすがに子どもができたので同居し、パーマネントの職についていない私が育児を主に担当すると考えていました。でも、公務員の夫からの提案で、私は研究者としての業績を積むため産休を終えると同時に研究職に復帰し、夫は育休を取り一緒に京都そして北海道で暮らしました。夫の育休が明けた後は、夫は職場のある兵庫県で子ども達と暮らし、私は単身赴任で平日は専ら研究に打ち込み週末は家族一緒に過ごす、という別居生活が始まりました。私が芦生研究林に勤務することになった今は、長男も地元の小学校に入学し、私+長男、夫+次男・三男という別居スタイルです。兄弟が離れて暮らすのは可哀そうだなと思うことはあります。育休を取り時短勤務をしている夫が職場でどう思われているのかも気になります。ですが近い将来、私達のスタイルも「特殊」でなくなる時代が来ることを願っています。

森を見つめ、色んな人とともに、森と人との持続的な関係を創っていきたい。

世界そして日本の森は、気候変動、シカの食害、開発、管理不足など課題が山積みです。研究者だけがいくら問題視しても解決しないことのほうが多いです。多様な分野の研究者が協力するだけでなく、産業界、行政や一般市民など様々な分野の人と協働していく超学際研究が重要だと国際的にも言われてきています。私も芦生研究林のある美山町を中心にそうしたプロジェクトを始めたところです。美山町には熱い思いの方がたくさんいて、私自身が日々たくさんのことを学ばせていただいています。従来の科学とは異なる新しいものが生まれつつあるのかもしれない、新しい知を生みだしたいとワクワクしています。一方で、方法論が確立されているわけでなく、論文という形の従来型の成果もでにくく、研究者が果たすべく役割とは何なのか、科学者としての責任とは、と悩むこともあります。でも、諦めずに、前向きに遠くを見据えてじっくりと進んでいきたいです。


家族、周りの人、森に感謝しています。
子どもたちからたくさんのことを教えてもらっています。夫や家族、友人、ご近所さん、多くの周りの人がいなければ今の自分もいなかった。森の前では自分は小さい存在です。


毎朝欠かさず飲むコーヒー。
マグカップは北大を去る際に後輩たちから贈ってもらったものです。毎朝、職場に向かう車の中でコーヒーを飲みながら、毎日変わる美しい景色を眺めながら、心を整え、研究のアイデアを練っています。

 

 


本当に便利な社会になりました。外に出なくても、インターネットですぐに調べ物も買い物もできます。自然もバーチャルな世界で再現されつつあったり、自然と切り離されても大丈夫と錯覚してしまいます。ですが、本当の自然がもつ力は偉大です。実際に自分の体と心を使って自然に触れ、本物が持つ魅力を存分に感じてほしいと思います。いろんな体験が、時には大変ですが、、生きていく力になると信じています。