京都大学男女共同参画推進センター / Kyoto University Gender Equality Promotion Center

コラム

“楽しむ心”を大切に、発見に満ちた研究をしていきたい

人間環境学研究科 教授/山村 亜希(YAMAMURA Aki)

  • 京都大学文学部卒業
  • 同大学院文学研究科博士課程修了
  • 京都大学総合博物館助手
  • 愛知県立大学文学部講師
  • 同准教授
  • 京都大学大学院人間・環境学研究科准教授
  • 同教授
研究テーマ:
歴史地理学の視点からの歴史都市(城下町・港町など)の景観復原研究

歴史も地理も大好き。自分にぴったりの歴史地理学

山に囲まれた中国山地の盆地で育ちました。子どもの頃から、知らない土地を「探検」し、その経験をもとに頭の中で地図を作ることが大好きでした。その一方で、学校の科目として好きだったのが歴史でした。身体と頭は地理ですが、気持ちは歴史という感じでしょうか。どちらかを高校生の時点で選べなかった私が、入学後に専門を選べることから志望したのが京大の文学部でした。受験勉強に苦労して入った京大なのに、人間関係に当初は慣れず、京大生の一部の文化にも馴染めず、悩みました。そんな中、1回生の時に履修した、当時の人気授業の一つの「人文地理学」が唯一の救いでした。それは、先生の研究を基に組み立てられた歴史地理の授業で、研究とは何かを実感できる授業でした。独創的な研究者の知的営為には鳥肌が立つほどの面白さがありました。そこで、地理と歴史のどちらかを選ぶのではなく、どちらもできる歴史地理学があることを知って、京大に来て初めてよかったと思いました。

苦しかった研究付けの日々。覚悟と喜び

卒論は、著名な歴史都市であるにも関わらず、当時の研究の盲点であった鎌倉をテーマにしました。膨大な記録を読み、発掘調査のデータを確認しながらも、それがどんな成果に結びつくのか分からず、今一つ気乗りしない作業でした。ただ、卒論提出前の最後の詰めで、無駄かも知れないと思っていた「点」と「点」の情報が繋がって、階段を駆け上がっていくような思考の上昇と興奮を経験しました。しかし、その後の修論はとにかく苦しいだけで、出来は惨憺たるものでした。卒論はビギナーズラックだったと思い知りました。結果的に、博士1年次に、最初から調査をし直し、論文も一から全て書き直したときに、卒論と同じ一筋の光明が見えました。プライドを捨てての修論の完全な書き直しは、相当の覚悟と労力が必要でした。しかし、この経験がその後に、失敗しても諦めない、再挑戦するという姿勢を作ってくれたので、無駄な経験ではなかったと確信しています。

フィールドワークの大切さ。過程を楽しむ心

日本の歴史都市には、それぞれの地域に応じた個性・特性があり、その土地ならではの魅力があります。研究では、現地で過去の痕跡を自ら確認し、頭の中の地図を作るフィールドワーク(巡検)を重視しています。一見しただけでは歴史的景観が全くない場所であっても、今と過去を結ぶ地図の断片を頭の中に作ることで、必ず研究が進みます。自分の目で見て、聞いて、考える巡検は、常に新しい発見に満ちています。学生達とともにわいわいと勝手な推論を交わしながらの各地の巡検は、私自身が一番楽しんでいるのかも知れません。研究は成果ではなく、過程だと思っています。私は要領が悪い上に、過程を楽しむ気質が強くて、喫緊の論文に直接結びつかないことが薄々分かっていても、まずは着手してしまいます。最初にうじうじ悩むよりも、たとえ無駄になっても前進する姿勢だけは、かつての指導教員に褒められました(笑)。して、往々にして締め切りまでの時間が不足する、焦るという事態に。ただ、その時点では使えなかった情報や知識も自分の血となり肉となり、必ず後から自分に戻ってくるので、過程を楽しむ心はやめられません。

バランスを取ることの難しさ

研究以外では、介護が必要な高齢の母と過ごしたり、趣味のスポーツや買い物に没頭することも。それぞれの局面では自分の存在意義をそこに感じ、もっと研究以外に時間を割きたいと思います。一方で、研究は確かに好きなことです。反面、追い詰められた時の逃げ場のなさは苦しいです。研究とそれ以外の生活とのバランスの悪さは、今でも解消できていません。そんなときに思い出すのは、学生時代の「人文地理学」の高揚感です。あの時の私のようなキラキラした目で今の私の授業を受けてくれる学生達や、一緒に行ったフィールドで楽しそうにしている学生達を見ると、地理学の面白さ・意義を大学という場で伝えることの励みになります。研究のみならず、人生に無駄な経験は一つもありません。目の前の人とものに真摯に向き合うことを大事にして、生きたいと思います。


知らない世界、知らない風景との出会い
仕事柄、頻繁に日本・世界各地に行きます。知らない土地を探検し、見たことのない風景と出会うことが、今でも研究の原動力です(写真は屋島から撮った多島海の瀬戸内海)。


とにかく猫が好き。どこでも猫を探します
今の自宅では猫を飼えないので、反動で、旅先や仕事場で出会う猫たちに、ついつい近づいて、触れ合えないか、手を伸ばしてしまいます。猫を撫でると、気持ちが和みます。

 

 


研究者は単なる職業ではなく、「生き方」だと思います。人生を賭けてもよいほど好きなテーマと出会えたら、研究者になるのもよいでしょう。ただ、好きなことを仕事にすると、辛くても逃げられません。自分の決断のせいで、喜び、楽しみ、満足、興奮だけでなく、悔しさ、憤り、悲しみ、恥、苦痛を味わうことも。それでも、一度しかない人生、喜怒哀楽にあふれた人間らしい「生き方」をする自分が好きです。