京都大学男女共同参画推進センター / Kyoto University Gender Equality Promotion Center

コラム

中央アジアの歴史と現在を往復しながら近代性について考える

東南アジア地域研究研究所 社会共生研究部門 准教授 / 帯谷 知可 (OBIYA Chika)

研究テーマ:
中央アジアにおける社会主義的近代化と現代

中央アジアの近代化のプロセスを探る

大学の授業でプラトーノフの小説『粘土砂漠』が取り上げられ、ロシア革命期の中央アジアに関心をもち、ロシア革命後に中央アジアで起こったバスマチ運動をテーマにした卒論を書いたことが、研究の道に進んだきっかけです。その後、在ウズベキスタン日本大使館や国立民族学博物館地域研究企画交流センター(当時)でキャリアを積み重ねるなかで、現在の研究テーマがかたちづくられていきました。
現在は、ウズベキスタンをはじめとする中央アジア諸国の原型が、ソ連体制下でどのようなプロセスを経て形成されたのか、そして社会主義のもとでの近代化とソ連解体を経てどんなことが起こり、文化や人々の暮らしがどのように変わったのかに関心があります。例えば、これまで中央アジアの民族・共和国境界画定や、ソ連解体後のウズベキスタンの上からのナショナリズムなどについて研究してきました。
また近年は、女性がまとうイスラーム・ヴェールの問題に関心をもち、中央アジアにおけるソ連期の女性解放運動や、近年のイスラーム復興の諸現象などとの関連で考察しています。イスラーム・ヴェールにまつわる問題について、中央アジアの現代・ソ連時代・ロシア帝国時代とさかのぼることで、ジェンダーや家族をめぐる規範と近代性をすり合わせようとした葛藤の歴史が浮かび上がってきました。こうした問題を明らかにすることは、20世紀の近代性を振り返り、これからの社会を考えるうえでたいへん重要だと考えています。

中央アジアに残る貴重な史資料保存に取り組む

その他にも、19世紀後半からロシア革命前夜までロシア帝国によって編纂された『トルキスタン集成』という資料集成の保存・共有プロジェクトに携わりました。中央アジアの歴史や文化、市井の生活、さらには自然科学などについての情報を含む、この貴重なコレクションはウズベキスタンの国立図書館に所蔵されており、在外研究の時にこの資料集成に出会ったのです。ソ連時代にマイクロフィルム化されたそうですが、当時マイクロリーダーがなく原本は痛みが激しい状態でした。そこで、現地の出版社と協力しながら原本のデジタル複製版の作成を試みることにしました。デジタル版は、ウズベキスタンの国立図書館と京都大学で共有し、東南アジア地域研究研究所図書室で閲覧できますし、また『トルキスタン集成』データベースとして書誌情報を公開しています。
研究の醍醐味は、明らかにしてきた断片的な事柄をつなげ総合すること。点と点を結びつけて線にすることで、大きな絵が描けた時は大きな達成感、わくわく感をおぼえます。『トルキスタン集成』もデジタル化の後、ロシア帝国における中央アジアに関する植民地的「知」の体系化という観点からその編纂史について研究しました。

多くの女性に研究者を目指してほしい

女性にとって仕事と家庭の両立は大きなテーマです。私も『トルキスタン集成』のアーカイブ化に取り組みはじめた頃に高齢出産とほぼ一人での育児を経験し、いろいろ大変なこともありましたが、職場の方々の温かいサポートもあって、研究活動を続けることができました。現在は東南アジア地域研究研究所の男女共同参画推進委員会のメンバーとして、小さな子どもをもつ職員が無理なく働ける環境づくりに努めるとともに、ジェンダー・セミナーの開催や広報活動などにも取り組んでいます。年々、男女共同参画の認識が高まり、育児中の研究支援なども拡充されてきているので、研究に興味のある人は臆せず目指してほしいと思います。現在の職場にはイクメンも多く、心強く感じています。


今の私にとって大切なことは“もの”ではなく“時間”。
平日の夕方も休日も、水泳や音楽など、子どもの習い事の送り迎えが忙しいです(笑)。子どもとの時間はもちろん大事ですが、仕事と育児に頑張れる自分をキープするためには一人でゆっくり過ごす時間が大切です。


中央アジアを訪れた時の密かな楽しみ。
毎年一度はウズベキスタンを訪れます。その際、現地の工芸品を見て回ることが楽しみのひとつ。それぞれ独特の味わいがあるのが魅力です。柘榴模様を集めています。

 

 


小さなことひとつでも、自分が夢中になれることがあったら掘り下げて、そこから世界を広げていきましょう。「何の役に立つのか?」と疑問を感じたとしても、そればかりに気をとられると、大切なものを見失ってしまいます。どんな成果につながるにせよ、やってみましょう、続けてみましょう。