京都大学男女共同参画推進センター / Kyoto University Gender Equality Promotion Center

コラム

紆余曲折は“今”への過程。 誰にとっても互いに生きやすい世の中へと。

人間・環境学研究科 教授 / 船曳 康子 (FUNABIKI Yasuko)

  • 京都大学医学部卒業
  • 医学部附属病院 研修医
  • 京都市立病院 修練医
  • 京都大学大学院医学研究科
  • カリフォルニア工科大学 リサーチフェロー
  • 京都大学大学院医学研究科 研究員・特任助手
  • 日本学術振興会特別研究員RPD(京都大学)
  • 医学部附属病院 精神科神経科 助教
  • 大学院人間・環境学研究科 准教授
  • 大学院人間・環境学研究科 教授
研究テーマ:
自閉症・発達障害のメカニズム解明と社会支援と二次障害の予防、メンタルヘルスの国際比較、学校精神保健

恩師の言葉を胸に刻み、我が道をひたむきに歩む

人から10年遅れをとってもいいから、我が道を進みなさい。先を争ってはいけない̶̶。人生の指針となったのは、入局先の教授が掛けてくれたこの言葉でした。当時は今と違って、6回生の秋に所属する診療科を決めなければいけなかった時代。私は、その時点で人生の方向性を絞るのではなく、もう少し経験を積んでからにしたい。そして家庭も大切にしていきたいと考えていました。その希望を理解し、尊重してくださる教授に出会えたことは、とても幸せなことだったと思います。
それからはまさに我が道を選択し続けてきました。大学院では認知症の研究をしたのですが、進めるうちに“忘れる”の前段階である“覚える”から取り組みたいと思い、アメリカへ留学。小鳥を育てて歌を覚えさせ、忘れるまでの経過をみることで、ライフスパンを通した認知機構の研究を行いました。
すると、思った以上に“覚える”こと、つまり発達の段階が大変という事に気が付きました。加えて、留学中に出産を経験したことで、子どもたちを取り巻く日本とアメリカの環境の違いにも興味を持ちました。アメリカは親や子に対する社会支援システムが整っていて、ハンディキャップのある方々への理解や配慮がおこなわれている。それに対して日本はどうだろう?と。その時の疑問が、今、私が行っている研究の出発点。認知症の研究者が増えていたこともあり、帰国したらこのテーマに取り組もうと決意しました。

転身に見える選択。一つずつが繋がって今がある

ただ、一口に子どもの社会支援といっても、関わり方は多岐に渡ります。例えば行政でできることもあるし、教育学の目線からできることもある。私が思う重要なポイントは何だろう?と考えた時、出した結論は“心”、つまり精神医学からのアプローチでした。発達障害など何らかの気がかりな特徴のある子ども、または病気の子どもをもつ親御さんは、必ずといっていいほど将来の心配をされています。その悩みに向き合おうと思ったら、大人になった時の像を理解していないとなりません。子どもの支援だけ考えていると、「大人になったらもう知らない」ということになりますから。精神医学を一から学びなおし、成人のこころの支援や診療をしっかりすることで、現在の子どもの支援に役立てようと考えました。
私が始めに所属したのは老年科。帰国してから精神科に移り、児童精神医学を専門とし、そして今は人間・環境学研究科で研究しています。周囲の人からはよく「なぜそんなに転身しているの?」と聞かれるのですが、私の中では転身ではなく、ひと繋がりなのです。認知症を研究したから、それをヒントに子どもの社会支援の枠組みの発想につながり、それを実現するために精神医学を学んだから今がある。
現在は四つのプロジェクトを掲げていますが、メインで取り組んでいるのは、発達障害の人を支援するシステム作りや、自閉症における脳内メカニズムの解明。この研究によって、医療なら医療、社会なら社会、教育なら教育と、それぞれが単独で支援している現状を見つめ直し、総合的な支援体制を構築すること。そして、自閉症をはじめとした人への理解を深め、誤解や勘違いから起こる日常のトラブルを防ぐことを目指しています。例外が多く、明確な答えを出しにくい分野ではありますが、あきらめずにコツコツと。一人でも多くの人が過ごしやすい世の中を作るために……。


忙しい毎日を癒してくれる、子どもと過ごす大切な時間。
仕事との両立は大変でもありますが、息抜きにも原動力にもなっている子育て。ちょっとでも時間を作れたら、子どもと過ごすようにしています。描いてくれた似顔絵やダンボールで作った作品は、大切に保管しています。


留学先で毎日観察した小鳥は可愛いパートナーでもあった。
アメリカに留学していた頃、研究対象であり、癒しでもあった小鳥たち。「日本を飛び出して、小鳥の歌の研究に行ってきます」と宣言した時は、周囲にびっくりされました。

 

 


研究は大きな花火を一発打ち上げて、太く短くやればいい、というものではありません。細くてもねばり強く続け、長期的スパンで真髄に迫ること。それが本来の研究の姿であり、大切なことだと感じています。もちろん分野によって違いはありますが、私がいるフィールドのように、比較的時間の調整がしやすい場所もあります。このような、細く長くの分野の研究職は家庭と仕事の両立を考えている人にも向いている職業の一つだと思います。